病院とキカイ

 入院した経験を持つ人間に、幼少期、妙なあこがれを抱いていた。

 今でも、あれはなんだったんだろう、と時々考える。当時は入院することが、何かとても名誉なことのように見えていたのだろうか。実際には暇なばかりだし、ろくに出歩けないし、幼少の身であんな場所へ行くことになっていたら、私はきっとたえられなかっただろうと思う。幸いにも今日まで一度も入院したことはないが、今ではもう入院してみたいなんて思ったりはしない。祖父を見て、もう懲りた。

 

 昔、心電図検査というものにわくわくした。SFで見るようなへんてこな装置が自分の体にくっつけられ、心臓の動きが電子音で聞こえる。それを寝転がった体勢のまま感じているとき、すさまじく興奮した。叫びたくなったことを覚えている。

 一度だけその検査で引っかかり、もっと大きな病院へ検査に行ったことがある。その時の興奮といったら尋常じゃなかった。今まで行ったことが無いような場所へ行き、ものすごく物々しい機械ときびきびした人間に囲まれて、何をやってるのかよく分からないことをやっている間、ずっと心臓が鳴っているような気がした。今にして思えば、あれはちゃんとした検査になったんだろうか。もしなっていなかったら謝りたい。悪気はなかったんです。

 

 特撮やアニメばかり見ていたせいだろうか。昔から大きな機械というものが妙に好きだった。構造とかが気になるのではなく、純粋に見ているのが好きだったのだ。だから、そんな機械がたくさん置いてある病院という場所に、興奮していたのかもしれない。勿論、そんな機械と直接関わる機会、まあつまり重病で病院へかつぎ込まれたりすることは今まで一度もなかったわけだが、それを幸運だと思う前に残念だと思っている自分がいるのが怖い。救急車に乗ったことがある、という人間も、かつての自分にとってのあこがれだった。

 だから今でも、町の病院とかはともかく、祖父の見舞いで大病院へ足を運んだりすると、ちょっとだけそんな気分が思い起こされる。今にして思えば、病院の中に漂うあのどことなく陰鬱な空気に気づかなかった、純粋な頃だからこその感情だったのだろう。そう思うと、その頃が懐かしくなったりもする。

 だから病院というのは、私にとって少し複雑な場所だ。

 

 ただし、歯医者は別だ。あそこには二度と行きたくない。

 あそこの匂いを嗅ぐだけで、口の中が痺れてくる。

 あそこ独特の機械を目にすると、ちょっと拒絶反応が起こる。