ここからこれから
部屋に差し込む、真昼の太陽が暖かい。空も、町も、木々も、鳥の声も、何もかもが輝いている。冬の初めは、光がとても透き通っている。
新しい世界は、昨日と同じぐらい綺麗だ。
自分にとっての節目を迎えるとき、大抵の人間が言うことは「何も変わらない」だ。
それは間違っちゃいない。
ノーベル賞作家でもあるアーネスト・ヘミングウェイの著作「陽はまた昇る」のタイトルには、「何も変わることなく、今日もまた夜明けが来て新しい一日が始まる」という意味が込められていると聞いたことがある。昔からみんな、何も変わらないことを知っていたのかもしれない。
しかしその一方で、世界は動き続け、変わり続ける。
私たちはみんな一日一日と寿命を削り続けているし、一分一秒ごとに死に近づいている。小さな子どもはどんどん成長するし、大人は年老いていく。地球温暖化は進み続けるし、植樹した木は少しずつ伸びている。だからみんな、節目を迎えるたびにお祝いをやっている。進んでいることを確かめるために。
止まっているのか、進んでいるのか。
すぐそばにあるはずの、私たちの周りにある時間は、しかし目に見えない。触れられない。嗅げないし聞こえない。味わうことなら、少しだけできるかもしれない。
よく、時間を川にたとえる人がいる。初めて聞いたときは、なるほど、と思った。言い得て妙な比喩だと。実際、そっくりなのだ。空よりもずっと近くにあるし、触れることも中に入ることも簡単なのに、川にはどこか、人間から遠く離れたような雰囲気がある。ずっと昔から、そこを流れ続けている。
川はやがて、広い海へ至る。
時間はやがて、私たちを死へと連れていく。
もう一度、窓の外を見てみる。
雲のない青空が、どこまでずっと広がっている。冬の寒い風が吹いている。
世界は美しい。私たちのことなど、まるで気にも留めないから。
今日から、昨日までと違う、新しい世界だ。
死ぬかもしれない。けれどきっと楽しい、未来だ。