Star Inn Tokyo日記 2

 バイト三日目。初めてほぼ全部一人で作業した。ここでの寝起きも存外すぐ慣れたが、それでもやってくるお客と相対するときはかなり緊張する。なぜならほぼ全員外国人だから。TOIEC450の拙い英語力じゃあ、Google翻訳が手放せない。それでもやりきれるから、世の中は鬼がいないと思える。

 

 

 ここでの業務の基本は、大体以下4つだ。

 1 シーツの取り込み。

 2 ベッドメイキング

 3 掃除、備品チェック

 4 お客様の案内

 ほぼこれだけ。と言ってもサービス業であるからイレギュラーはつきものである。今日も早速あったり、まだ連泊のお客さんの顔を把握し切れてなくて思わぬ間違いがあったりもする。そこはまあ、初心者のご愛敬だ。

 それでも大体、昼のうちに作業はあらかた終わる。空いた時間は自由に使えるので、もっぱら一階のフリースペースでネットサーフィンに興じたり、本を読んだりしている。余談だが、この夏に読もうとしている本のラインナップがジョージ・オーウェル1984年」夢野久作ドグラ・マグラ」サミュエル・ベケットゴドーを待ちながら」と、やけに暗いラインナップになった。まあ、読み応えがある本ばかりなので読んでいてちっとも退屈しないが。

 

 民泊の安さ故、そして都心への近さ故、ここの利用客は前述のように大半が外国人だ。これまであっただけでも、台湾、フランス、中国、タイ、アメリカ。これから更に増えるだろう。もっとも、多いのはアジア圏だ。中には少しなら日本語が分かる人がいて、そういう人たちとは少しばかり話が弾むこともある。何気なく流していたウルトラマンの主題歌に、台湾人の若い男性がぼそりと「ウルトラマンガイア・・・・・・」と呟いたときは、おもわず振り向いてしまった。特撮とは素晴らしい文化だ。

  

 

 食事は自分で確保することになる。一応キッチンもあるのだが、結局大抵、買い食いか外食だ。近くに素晴らしく安い弁当屋があるので、そこをちょくちょく使っている。終夜開いているので、お客の中にもよく買ってくる人たちがいる。あとは、野郎御用達といった感じのごつい料理が多い。定食屋が一番いい。野菜も付いてお腹いっぱいだ。

 青砥の町は、わりに夜が早い。夜10時を過ぎると、チェーンを除く大半のお店は店じまいだ。しかしお客様がやってくることが遅いことも多いので、私の生活は必然遅くなりがちである。昨日も今日も、夕食はラーメンだった。この夏は太りそうだ。返ったら運動しなければなあ、と思う。あっちじゃいつも自転車漕いで生活してるので、太るなんて全然気にしないのだ。都心の人間に肥満やら高血圧やらが多い気がするのは、そんなところにも理由があるのだろう。

 ・・・・・・・・・・・・まだ若いのに、悩みが女子めいている。一人暮らしをしているとつくづく思うが、どんどんどんどん家庭的な思考に切り替わっていくのだ。洗濯物が干せないから雨は嫌だな、と思うことが当たり前になって久しい。まあ、そういう行動原理が身につきつつあるからこそ、こういったバイトがあまり気兼ねなくやれるのかもしれない。実際、やることが家でやることと大差ないのだから。

 

 今夜は、夕食のあとで一杯だけ酒を飲んできた。店で飲む酒は、缶ビールの何倍も美味い。たとえ貧乏でも、このうれしさを忘れたくはない。そして煙草が吸える店に、なくなってほしくないと密かに願う。

 イレギュラーあれど、一人の夜。

 帰ってきたお客に、通じなくても「おかえり」と言うようにして気づく。

 シチュエーションと表情だけで、意図は存外通じるものだ。

 簡単なことに限る、が。